「全人医療(からだ・こころ・たましいのケア)」という理念を掲げ、京都で長年愛されてきた日本バプテスト病院。そこには、ベテランから若手へと受け継がれる「愛」のバトンがあります。 今回は、患者の意思を最優先に考える岩井看護部長と、異業種から転身し、子育てをしながら急性期病棟で輝く3年目の堀居さんにインタビュー。理想の看護と、働きやすい現場のリアルを紐解きます。

祖母の看取りと「サクラサク」の電報。看護師のこれまでの歩み
―看護師になろうと思ったきっかけと、これまでのキャリアを教えて下さい。
岩井さん:
元々小学生の時から教会に通っていたこともあって、「人のために何かしたい」という思いはあったんです。でも、看護師になりたいと強く思ったのは、祖母の死がきっかけですね。亡くなる前に家族全員で最期を看取らせてもらった経験から、「人の最期を看取れる看護師の生き方ってすごいな」って感銘を受けたんです。
私は和歌山出身で、京都に来たのはバプテストの看護学校への入学がきっかけでした。キリスト教系で1学年15名という少人数制のこの学校に強い憧れがあり、地元教会の牧師の勧めと支えもあって受験。二次試験は20人中2人という難関でしたが、「サクラサク」の電報で合格を知りました。
卒業後は病院に入職し、病棟勤務をしていたんですが、学校に大変お世話になったので、「学校に貢献したい」という思いが叶って、9年間教員を務めました。その後、病院に戻って看護部長になり、老健(老人保健施設)で8年、また学校に戻った期間を経て、現在に至ります。現場経験の短さという課題もありましたが、その思いを原動力に歩んできました。
画像:日本バプテスト看護専門学校公式サイト(http://www.jbsn-kyoto.com/)
先輩看護師から託された「命の教材」。信念としての意思決定支援
―看護師として、一番大切にしている「信念」は何ですか?
岩井さん:
私が大切にしているのは、患者さんの「意思決定支援」です。
これは、若くして亡くなった先輩看護師の事例に大きく影響を受けています。その先輩は、ご自身の病状が悪化しても、最後まで自力でお風呂に入ったり、排泄を済ませたりと、できる限り自分の意思で行動することを貫かれました。そして、自分が亡くなるまでのビデオを「学校の教材に」と提供してくださったんです。 実際、私も教員をしていた頃に、その教材を使っていました。
また、小学校低学年のお子さんのために、15歳までの誕生日ごとの手紙や、成長に合わせた絵本も準備されていたんです。
その姿を見て、最後までその人の「できること」を信じ、その意思を尊重することこそが看護なのだと、強く感じました。この経験があったからこそ、患者さんの意思を尊重するという思いを、今も常に大切にしています。
―病棟では、なかなか患者さんの意思を尊重することが難しいと感じている看護師さんもいらっしゃると思います。看護部長がそのような思いを持っておられると、現場の看護師さんにとっても心強いですよね。
画像:看護部長/岩井さん(左)
牧師もチームの一員。ジョブローテーションとチームでの実践で学べる「からだ・こころ・たましい」への全人医療
―日本バプテスト病院についてお伺いします。こちらの病院の良い所と最大の特徴は何ですか?
岩井さん:
うちの病院は、学校はなくなりましたけど、病院、老健、訪問看護、居宅介護支援事業所という4つの施設がコンパクトにまとまっているのが良いところです。患者さんの入院から退院、地域での生活まで一連の流れを全部学べるんですよ。「ジョブローテーション」でいろんなところを経験してほしいと思っています。特に、ホスピスでの経験は家族を含めた看護を学ぶ上で本当に大事だから、キャリアに組み込むことを勧めています。
そしてこの病院の看護の最大の特徴は、 「キリスト教による全人医療」ですね。
からだ、こころ、たましいのケアを大切にしているところです。
もう一つは「チーム」での実践。良いチームじゃないと良い看護はできないから、この二つが柱です。あとは、他の病院と大きく違うのは牧師が精神的・スピリチュアルなケアを担当するチームの一員として在籍していることです。牧師さんがいないとバプテスト病院ではない、というくらい重要なんです。
画像:朝礼の様子(右)とスタッフステーションの看護師の皆様(左)
―チームで働く中で、難しさを感じるのはどんなところでしょう?
岩井さん:
職種が全然違う中でのチームワークは、常に課題だと感じています。特に、病院と外部の施設(老健や居宅など)との連携がなかなかうまくいかないことがあるんです。現場は、どうしても自分の部署の忙しさが優先になっちゃうから、協力し合うのが難しい時がありますね。
若手看護師育成と、これから目指す地域連携
―若い看護師さんを育成される上で、特に心がけていることや着目されていることはありますか?
岩井さん:
やっぱり「コミュニケーション」ですね。常に声をかけること。
うちは規模が小さいので、新人がたくさん入ってくるわけではないから、顔が見える関係で、その人に合わせた育成ができるんですよ。
伸びるなって感じる人材は「素直さ」がある人。人の話を素直に聞く姿勢がある人は成長が早いです。
―次にインタビューさせていただく3年目の看護師さんに期待することはありますか?
岩井さん:
彼女は子育てと両立しながら看護師になった、自分の意思をしっかり持った誠実で素直な人です。目標とするキャリア(認定看護師の取得など)を病院としても応援して、下の世代の良い見本になってほしいと期待しています。
この病院は、ママさんナースのライフイベントとの両立を支援する、働きやすい環境だと思いますよ。
―最後にこれから看護師を目指す人、悩んでいる人へのメッセージを。
岩井さん:
これから看護師を目指す方へ、実習などを通して『少し違うかもしれない』と感じることがあっても、それは自分自身と向き合えている大切なサインだと思います。無理に答えを急ぐ必要はありませんが、自分に合った道をじっくり考えることも大切です。ただ、頑張りたいと思うならもちろん応援します。
最終的には、「本当に看護師になりたいのか」を自分に問いかけてみることが大切です。回り道をして、また看護師に戻ってくる人もいますから。
このバプテスト病院は、コンパクトで機動性に優れているので、上手に使えば自分が育つ場所として面白いし、力をつけていけるチャンスがある場所だと思っています。当院は、部署間の研修や異動が比較的容易で、機動性があるのが強みです。いろんな経験を積んでキャリアを磨きたい方には、チャンスの多い場所だと思います。
―素敵なメッセージをありがとうございました。患者さんの意思を尊重するという岩井さんの信念。その思いは、形は違っても、組織の中でさまざまに受け継がれています。
次にお話を伺ったのは、看護師歴3年目の堀居さんです。
画像:施設の雛飾り(左)、施設の掲示物2025年度医療団標語聖句(右)
出産の夜に触れた、看護師の「手のぬくもり」。営業職から看護の道へ
―看護師になる前は携帯電話会社で法人営業をされていたそうですが、なぜ看護師になろうと思われたのですか?
堀居さん:
シングルマザーとして、自分で収入を確保する必要性を感じたというのが一つあります。
もう一つは、娘を出産した時、家族が来られない時間帯に生まれてしまい、誰もいない時に陣痛が始まったんです。そんな時も、そばでずっと背中をさすってくださった看護師さんがいて、それがすごく印象に残っていて。「どうせもう一度勉強して資格を取るなら、看護師がいいな」と思いました。
―バプテスト病院を選ばれた経緯を教えてください。
堀居さん:
もともと家族が何度かお世話になっていて、身近な存在の病院でした。学生時代にも、先生方から「評判の良い病院だよ」と聞いていました。
入職前に印象的だった出来事として、コロナ禍でクラス全員がワクチン接種のために来院した際、超ベテランの外来の看護師さんが「大変やね、心配せんでも大丈夫よ」と親切に声をかけてくださったんです。それがすごく印象的で、「あ、いい病院だな」と思って入職を決めました。
―入職前と入職後でギャップはありましたか?
堀居さん:
実習で今の病棟に来た時は、あまりの忙しさに「こんなところで教育や指導が受けられるのかな」と不安を感じるほどだったんです。でも、実際に入ってみたら、そんなことは一度もなく、良い意味でのギャップがありました。
教育係の先輩が必ずついてくれますし、その人がいない時でも周りの人がしっかり見てくれて、一人にされたことは一度もありませんでした。
画像:看護師 堀居さん(左)
看護師長が後押ししてくれた忘れられない経験と先輩看護師の温かいフォロー
―これまで看護師として働く中で最も印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
堀居さん:
3年目の初めに担当した、病状が重く、処置が多い患者さんのエピソードです。
ご家族が「亡くなる前にどうしても家に連れて帰りたい」という強い願いを持っていらしたので、病院で家族指導に多くの時間と労力を費やしました。
4ヶ月間ほど、定時で帰れず残る日もあり、しんどい時期もあったのですが、その時、先輩やベテランの看護師たちが、「大丈夫」「他の患者のケアは私たちがやっておく」と手厚くフォローしてくれたことに、とても助けられました。
無事に退院された後も、ご家族が近況を伝えに来てくださって。
めちゃくちゃしんどかった分、すごく勉強になったし、印象に残っています。師長さんも「絶対勉強になるから」と私をその担当につけてくださったのが分かるので、それに答えたいという思いもあり、すごく良い4ヶ月でした。
―4か月間、本当に全力で向き合われたんですね。堀居さんが最も大切にしている「看護観」はありますか。
堀居さん:
私が今一番大切にしたいと思っているのは、「家族の味方でいられる看護師」になりたいということです。
認知症の症状などで患者さんが問題行動を起こした際、ご家族が「ご迷惑をおかけして」と謝罪されることが多い状況に、ずっと違和感を感じています。
それは病気の症状の一つであって、患者さんはもちろん悪くないし、ご家族なんてもっと悪くない。ご家族が全部一人で何とかしようとせずに、「絶対限界はあっていい」「お薬や施設など、ほかの選択肢もある」ということを伝えていきたい。
患者さんに寄り添うのはもちろんですが、ご家族に寄り添えるのも看護だと考えています。
―看護部長が語られた「患者さんの意思を尊重する看護」とも重なりますね。思いがしっかり受け継がれていると感じました。
相談しやすさの秘訣は新入職者一人ひとりに「勉強のお姉さん係」がつくこと
―バプテスト病院の「良かった点」、特に患者さんへのケアで感じられたことは?
堀居さん:
他の病院で実習に行った際、患者さんへの対応や言葉遣いに違和感を感じることがありました。でも、バプテスト病院は実際に働き始めてから、そのような違和感は一度もありません。
わがままを言われる方や、癖の強い患者さんもたくさんいますが、絶対に適当にせず、「この人が本当にしたいことは何だろう」「何が一番良いんだろう」というのを、わざわざ会議やカンファレンスを設けなくても、スタッフステーションで自然にみんなで話し合える文化があるんです。上の方々がそうしているので、若手もそれを見て自然にやるようになる。患者さんへの愛が深い病院だと感じています。
―教育体制やサポートについてはいかがですか?
堀居さん:
新入職者一人ひとりに「勉強のお姉さん係」がつくシステムが整っています。
私は31歳で看護学校に入学し、子育て中のシングルマザーとして入職したのですが、私のお姉さん係になってくださった方も、同じように途中から看護師になってシングルマザーとして子育てをされていた方でした。境遇が近いからこそ相談しやすく、本当に心強かったです。
また、1年生が入ってからその人の人柄を見て係を決めるという方法を取っていて、相性が良い組み合わせになるよう配慮してくださっています。それが離職防止やストレス軽減にも繋がっていると感じていて、すごく工夫されているなと思いました。
画像:日本バプテスト病院公式サイト(https://www.jbh.or.jp/about/section/kango/post.html)
「サンタさんせなあかんやろ」――ライフイベントに寄り添う看護師長の言葉と、ママナースの日常
―お子さんを育てながら常勤で働かれているとのことですが、ワークライフバランスはいかがですか?
堀居さん:
他の病院に行った同期の話を聞くと、当院は比較的「休みが多めの病院」だと感じています。
子どものこともあり、普通は月に4〜5回の夜勤を3回にしてもらっています。師長さんはご自身も子育て経験がある方で、すごく良い人なんです。希望休を言わなくても、「まだサンタさんせなあかんやろ」と言ってクリスマスイブに休みを入れてくれたり、「授業参観に行くなら希望を出さなくても日だけ言ってくれたらいいよ」など、すごく柔軟に調整してくださるので、とても助かっています。仕事にやりがいもありますし、休みの日は娘と時間も取れているので、満足しています。
―今後の長期的なキャリアビジョンについてお聞かせください。
堀居さん:
定年までできればここにいたいなと思っています。イレギュラーな形で私を拾ってくださったという恩もありますし、師長さんをはじめ、子育て中のスタッフに理解のある職場なので。
今後は、自分の娘が大きくなった後、今度は私が次の若いお母さん世代をサポートする側に回って、恩返しをしていきたいというビジョンを持っています。
また、研修制度も充実していて、興味のある分野の研修にダイレクトに繋がっていける体制がいいと思います。今、認知症のリンクナースの委員会に入っているのも、上の方が事前に興味のある分野を聞いてくださったからです。
画像:スタッフステーションで自然なコミュニケーションが取られている様子
迷いながらでもいい。得意・不得意を補い合い、この場所で次の世代へ恩返しをしたい
―1年目の看護師さんや、入職を考えている看護学生さんへのメッセージをお願いします。
堀居さん:
1年目の看護師さんへは、「仕事が向いてない」と感じるのは自然なことなので、思い詰めないでほしいと伝えたいです。
私もそうでしたが、1年生は誰もが「無理かも」「向いてへんわ」と思う時期が絶対あると思います。でも、2年目や3年目になっても、10年目の看護師さんでも、得意なことと苦手なことはあって、みんな違うからこそ補い合ってやっていけるんだと強く感じています。
看護学生さんへは、実習や見学で「かっこいいな」「素敵だな」と思える看護師さんがいるかどうかを見てほしいです。バプテスト病院には、私自身も大好きな看護部長をはじめ、本当に良い人しかいないので、もし機会があれば一度見に来ていただけたら、「こんなに温かい人がたくさんいるんだ」と感じてもらえるんじゃないかなと思います。
―堀居さんの言葉からも、この病院の温かさが伝わってきました。本日はありがとうございました!
【インタビュアーMRTスタッフィング加藤のコメント】
今回の取材で強く感じたのは、日本バプテスト病院に流れる「看護のバトン」です。
岩井看護部長が大切にしてきた「患者の意思を尊重する看護」は、堀居さんの「家族の味方でありたい」という想いへと、確かに受け継がれていました。
忙しい急性期の現場でありながら、患者と家族に真摯に向き合い、仲間同士で支え合う文化。そして子育てなど人生にも寄り添う職場の温かさ。
理念が言葉だけでなく、日々の看護として息づいている。
先輩から後輩へと「愛」のバトンがつながる、そんな看護の姿がありました。
📝 インタビューのおさらい(よくある質問)
Q.
日本バプテスト病院の看護の最大の特徴は何ですか?
A.
「キリスト教による全人医療」と「チーム実践」です。からだ・こころ・たましいのケアを大切にしており、チームには精神的・スピリチュアルケアを担当する「牧師」も一員として在籍しているのが大きな特徴です。
Q.
中途入職や経験が浅い方へのサポート体制はありますか?
A.
新入職者一人ひとりに「勉強のお姉さん係」がつくシステムがあります。例えば、子育て中のママさんナースには、同じ境遇を経験した先輩が担当につくなど、人柄や相性を見た配慮があり、相談しやすい環境が整っています。
Q.
子育てと仕事を両立できる環境(ワークライフバランス)ですか?
A.
はい。当院は比較的休みが多く、ママさんナースのライフイベントに非常に理解のある職場です。お子さんの行事やクリスマスなどの希望も汲み取ってくれる柔軟な調整があり、夜勤の回数なども相談可能です。
Q.
患者さんやご家族へのケアにおいて、大切にしていることは?
A.
「患者さんの意思決定支援」と「家族の味方でいること」です。患者さんが本当にしたいことは何かをスタッフ間で自然に話し合える文化があり、ご家族の負担や悩みにも寄り添う看護を実践しています。