先輩看護師の背中 シリーズ第2弾
訪問看護

その人の人生のエンディングに、最後まで関われる看護がある

社会福祉法人同和園 / 
訪問看護所長 井上さん

病院・施設・在宅と、さまざまな現場を経験してきた井上さんが語るのは、「一人で判断するけれど、一人で背負わない看護」。訪問看護のリアルと、その奥深い魅力を伺いました。

 

「看護師になりたかった。でも一度は諦めました」…その後訪れた転機

―まずは、井上さんが看護師を目指したきっかけから教えてください。

 

井上さん:
実は、高校生の頃にはもう「看護師になりたい」と思っていました。
高校では陸上ホッケー部に所属していて、国体選手にも選ばれたんです。
でも当時は、短大への推薦がすでに決まっていて、進路を変えることができませんでした。

 

―それで短大へ進学されたんですね。

 

井上さん:
はい。幼児教育学部に進みました。
ただ、卒業後に介護職として2年間、現場で働いたんです。
そのとき、現場の方に「あなたの天職は、看護師やと思うよ」と言われて。
その言葉が今でも忘れられません。

 

―その一言が、転機に?

 

井上さん:
そうですね。
介護士としてできることには、どうしても限界がある。
「どうせ人のケアをするなら、できることを増やしたい」
そう思って、改めて看護師を目指すことを決めました。
その頃から、病院だけでなく、高齢者や生活に寄り添う看護がしたいと考えていました。

 

仕事と育児の両立、そこで鍛えられた「限られた時間で判断する力」

―看護師になってからは、長く病院で勤務されていますね。

 

井上さん:
はい。日赤病院で10年間勤務しました。
その間に、子どもを3人出産しています。

 

―仕事と育児の両立は、大変だったのではないでしょうか?

 

井上さん:
正直、楽ではなかったですね。
親や周りの助けを借りながら、なんとかやってきました。
でも、その忙しさの中で「限られた時間で判断する力」は、かなり鍛えられたと思います。
その後、吉川病院に移り、オペ室、療養病棟、京都南病院での夜勤専従など、さまざまな部署を経験しました。

 

―そこから、訪問看護へ進まれたのですね。

 

井上さん:
はい。有料老人ホーム内の訪問看護です。
大阪と京都を行き来しながら、同時に5か所ほどを担当していました。
大変な状況にある現場を任されることも多くて、ちょうどコロナ禍には、大阪で訪問看護の管理者・統括も任され、3か所を見ていました。

 

―かなりハードな環境ですね。

 

井上さん:
高速に乗って移動する毎日で、「これはさすがに大変やな」と思って退職しました(笑)
訪問看護の経験としては、通算で約10年になります。

 

何年経っても、不安なら同行したらいい

―同和園では、その経験を買われて、役職付きでの入職だったそうですね。不安はありませんでしたか?

 

井上さん:
もちろんありました。
だから入職前に、一つだけはっきりお願いしたことがあります。
「立場に関係なく、しっかり教えてもらえる環境かどうかを確約してほしい」と。

 

―これだけのご経験があっても、ですか?

 

井上さん:
はい。
何年看護師をやっていても、不安なときはあります。
不安が強ければ、ベテランの看護師に同行してもらえばいいんです。
いい加減な仕事は、絶対にしたらあかん。
それが、私の中で一番大事なことですね。

実際、同和園では、役職付きで入っても同行や研修はしっかりありました。
経験年数や肩書きより、「安全な看護」を大切にしている職場だと感じています。

 

同和園

大正10年に京都府下で初めての老人ホームを創立した同和園では、ともに生き、ともに歩む「ともいき」を大切にしている(同和園ホームページ https://dowaen.jp/ より)

 

訪問看護こそ、チームや

―現在の体制について教えてください。

 

井上さん:
利用者さんは65~75名ほど。
ステーションのスタッフは、看護師5名(うち1名は産休育休中)、理学療法士1名、事務1名です。
一日の流れはこんな感じです。

 

  • 8:30 出勤・申し送り
  • 9:00 訪問開始
  • 12:00 一度帰社して昼食
  • 13:00 午後の訪問
  • 16:00 帰社・報告・記録
  • 17:30 退勤

―報告の頻度が多い印象です。

 

井上さん:
自然と、1日3回くらい報告会がありますね。
起きたことを、その場にいる人に口頭で共有する。
それが、安心につながっていると思います。

 

同和園訪問看護ステーション 画像:同和園公式サイト(https://dowaen.jp/facility/

 

―利用者さんの担当制について教えてください。

 

井上さん:
担当はありますが、月ごとに変わります。
実際に担当として行うのは、主に報告書作成です。
利用者さんの情報は、全員で共有していますし、サマリーも、必ず私がチェックします。
「この人は〇〇さんだけの患者」という考え方はしていません。
訪問看護こそ、チームやと思っています。

 

病院・施設と、訪問看護の決定的な違いとは

―訪問看護ならではの特徴は、どんなところでしょうか?

 

井上さん:
「決定権が、本人と家族にあること」ですね。
施設では、どうしても施設側が決めることが多い。
家族の顔も、あまり見えません。

でも訪問看護は、その人の生活の場に入る。
だからこそ、深く知ることができるし、楽しい。
病院で「〇〇さん」と呼ぶときは、容態を確認するための声かけが多いですよね。
病院は治療の場ですから。
でも在宅で「〇〇さん」と呼ぶときは、「あなたのことを知りたい」んです。

訪問看護サービス 画像:同和園公式サイト(https://dowaen.jp/

 

一人で判断する。でも、一人じゃない

―訪問看護で大変だと感じる点はありますか?

 

井上さん:
やっぱり、その場で判断しないといけないことですね。
でも、一人一台、携帯があります。
いつでも相談できる。
「完全に一人」ということは、ありません。

 

これからは育てていく時代。未経験でも置いていかない職場へ

―臨床経験が何年くらいあれば、訪問看護は可能でしょうか?

 

井上さん:
昔は「5年必要」と言われていましたけど、今はそうも言っていられません。
3年くらいからかなと思います。
2~3年で自己判断はできるようになりますが、正直、2年だと緊急時は少し心もとない。
だからこそ、育てる体制があるかどうかが大事なんです。

同行訪問もしますし、電話相談もできます。
不安の強さは人それぞれ。
「不安なら、フォローする」
それが当たり前の職場でありたいですね。

 

働き方と、オンコールの工夫

―オンコール体制について教えてください。

 

井上さん:
1st・2nd体制を取っています。
最終判断は、私が対応します。
判断は

  1. 指示のみ
  2. 出動
  3. 出動+救急要請

この3択です。
迷っているから電話が来る。
それでいいと思っています。

オンコール手当は、通常1回8,000円ですが、1stが5,000円、2ndが3,000円に分けています。
一人に負担が集中しないよう、精神的にも、体制的にも工夫しています。

訪問看護に向いている人

―訪問看護にはどんな人が向いていると思いますか?

 

井上さん:

  • 気づく力
  • 計画性
  • 傾聴力
  • コミュニケーション力

あとは、資源が少ない中でも柔軟に対応できる人ですね。
活躍している人に共通するのは、「引き出しが多い」こと。
そして、利用者さんの最期に向かって、同じ方向を向ける人です。

訪問看護へのキャリアチェンジに迷っている看護師さんへ

―最後に、訪問看護にチャレンジするか迷っている看護師さんへ、メッセージをお願いします。

 

スタッフAさん
「不安は大きいと思うけど、相談できるし、一緒に頑張ろう!」

スタッフBさん
「人と関わることが好きで、やってみようと思えたら、できるよ」

 

井上さん:
訪問看護の魅力は、その人の人生のエンディングに、最後まで関われること。
「ビールが飲みたい」
病院ではダメでも、在宅なら叶えられることもある。
それも、その人の人生です。
在宅で働いてから、病院に戻りたいと思ったことは、一度もありません。

【インタビュアー荒木のコメント】

冒頭で、保育士免許・介護士免許・看護師免許の3種類をお持ちと伺い、思わず驚いてしまいました。
まさに“大谷選手も驚く三刀流”です。

 

「訪問看護だけど、一人にはさせない」
その言葉通りの覚悟と責任感を、井上看護師から強く感じました。
オンコール対応一つをとっても、最期の砦として必ず井上さんがいる。
サマリーに関しても必ず目を通してくださり、その徹底したフォロー体制が「一人の責任じゃないよ」というメッセージを、何よりも雄弁に物語っていました。

画像:同和園公式サイト(https://dowaen.jp/

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